Introduction・・・オーストラリア・ワイン
オーストラリア・ワイン

Introduction

オーストラリアは、米国本土とほぼ同じ面積を有する大陸である。葡萄栽培面積は17万ha、生産量は2011年度で世界第7位、その約6割を輸出し、イギリスでは、フランスを抜いて輸入ワインの第1位、アメリカでも首位の座を競っている。

日本でも、フランス、イタリア、チリ、スペインに次ぎ、アメリカと輸入ワインの第5位を争っている。
オーストラリアは僅かここ20年ほどの間に、ワインの世界の一大勢力となっている。それは、オーストラリア・ワインが、一定レベルの品質の高さを持ち、灌漑を行う内陸の畑で大量生産される葡萄から造られたワイン1本を取ってみても、必ず合格ラインを満たす最低限の品質水準を維持しているからであろう。

オーストラリアのワイン産地は、下記の4州にあるが、大まかに言えば、その沿岸部で古くからぶどうが栽培されていた。
第二次大戦後、内陸部のマレー川流域地帯の灌漑開発が進み、広大な葡萄畑が新しく開発され、今日では、国内で収穫される全葡萄の約3分の2を占めるまでになっている。

South Australia

南オーストラリア州は、バロッサ・ヴアレーを中心に著名な産地が広がっていて、オーストラリアのワイン生産量の約半分を占める。

New South Wales

ニュー・サウス・ウェールズ州は、シドニー近くに歴史あるハンター・ヴアレーを擁し、生産の3割弱を占める。

Victoria

ヴィクトリア州は、フィロキセラ禍で衰退したが、ワインブームの1960年代に、メルボルン近郊の古い産地を中心に復活し、今や生産の2割を占める。

Western Australia

西オーストラリア州は、生産量こそ少ないが、マーガレット・リヴァーを始めとして大陸東南端の冷涼な気候が注目され、近年活発な開発が行われている。

lin

三大灌漑地域

西オーストラリア州を除く上記3州のワインの大半は、内陸部のマレー川流域の広大な地域で栽培された葡萄が使われているのがオーストラリアの特徴で、この地域は灌漑なしには葡萄が育たないため、「三大灌漑地域」と呼ばれている。収穫量の多い順に示せば、

・MurrayDurling(マレー・ダーリング) ヴィクトリア州とニュー・サウス・ウェールズ州に跨る。
・Riverland (リヴアーランド) 南オーストラリア州
・Riverina (リヴァリーナ) ニュー・サウス・ウェールズ州である。

オーストラリアのワイナリーは20世紀末から21世紀に入って、900から約2,500に増加しているが、スケールメリットを重視するオーストラリアのワイン産業は、基本的に5大ワイン会社
Foster's(フォスターズ)
Hardy's(ハーデイーズ)
Pernod Ricard Pacific(ベルノ・リカール・パシフィック)
Casella Wines(カセラ)
McGuigan Simeon(マクギガン・シメオン)
に支配されている。

この5つの企業だけで加工する全葡萄の64%、全輸出ワインの75%を占めているのもオーストラリアの特徴であろう。(参照:著名ワイナリー)

伝統に捕らわれない進取の精神に溢れるオーストラリアは、産地間ブレンドワインを生むと共に、「カスクワイン」と呼ばれる低価格の紙パックワイン、や、スクリューキャップを最初に導入した国でもある。

 

近代的ワイン造り

大雑把に言えば、「古典的ワイン造り」は、ワインは出来るだけ自然であるべきだという立場に立っている。葡萄栽培からワイン醸造までの一連の流れの中で、人間が関われる部分を相対的に少なくして、人間が過度にワインに介入し、コントロールすることを極力避けなければ、いいワインを生まないと言う考えである。

一方、最先端の科学技術を駆使して、総て人間のコントロールの下で、市場の求めるワインを造って行こうとする考えで、「近代的ワイン造り」とでも言うものである。
オーストラリアワインのここ20年の驚異的進展は、後者の考えに基づいていると言っても言い過ぎではないであろう。

ワイン醸造に関わる機器・設備類の近代化と共に、現代の化学技術を駆使して、色調を調整したり、タンニンの強さを調整したり、あるいは酸度を調整している。更に、樽の風味を加えるために、オークチップの使用なども盛んに行われている。使う酵母の違いや発酵温度の調整で、ワインの性格や印象をも変えている。
これらの醸造技術の一例を挙げれば、以下のようなものがある。


Microoxygenation (マイクロオキシジェネーション)
今世紀に入り、大手のワイナリーを中心に導入が広がっている技術であるが、これは赤ワインの発酵終了後の貯蔵段階で、タンクの中のワインに非常に微量な酸素を通すことによって、ワインをまろやかな口当たりのよいものにしようとするものである。
赤ワインは、出来上がって間もない初期の段階では、タンニンや酸のまろやかさに欠けるところが出がちで、飲む時期としては、少し寝かせて置いた方がいい場合が多い。中には飲み頃になるのに何年も時間が必要なワインもある。そこで、microoxygenationの手法を使って、出荷した時点で既にこなれた、飲み頃感のあるまろやかなワインを提供しようとするものである。

Reverse Osmosis (リバースオズモーシス)
「逆浸透圧技術」とでも言うのでしょうか、この技術は、ワインのアルコール度数を調整することを可能にする。一般的にはアルコール度数を下げるために使われるが、この技術の応用で、アルコール度数を上げることにも可能。つまり、思いどおりのアルコール度数のワインを造ることを可能にしている。

どんなに、最先端技術を駆使しても、「古典的ワイン造り」をしているワインと「同じようなもの」は造ることは出来ても、決して「同じもの」は出来ないのが、又、ワインの面白いところと言えます。

ラベルの読み方とGI (地理的呼称)
ラベルの読み方

収穫年 
95%以上が2004年産のものであることを保障する。

生産地 
85%以上が表示した産地のものであることを保証する。

品 種 
表示した品種が85%以上であることを保障する。ブレンド・ワインで、品質を表示する場合は表示品種のが85%以上であることを保障する。

*銘柄名の表示されない場合は、生産者名や品種名が大きく表示される。

 

地理的呼称 (Geographical Indications)

オーストラリアのGI(Geographical Indications)は、オーストラリアのワイン産地を、
地域 (zone)、
地区 (region) ならびに、
小地区 (sub-region)
に規定したもので、このGIの決定は、地理的呼称委員会(Geographical Indications Committee)のよって行われる。

ヨーロッパの原産地呼称制度(仏のAOCや伊のDOC)に類似しているが、葡萄栽培とワイン製造方法については、ヨーロッパの制度のような厳格な規定はされていない。

唯一の規制は、特定の地名を表示するワインには、その地方で収穫されたぶどうが少なくとも85%含まれていなくてはならないということだけである。

オーストラリアにおいてGI制度が導入されたのは1993年で、ECとの貿易協定を基に、1980年、オーストラリア・ワイン・ブランデー公社 (Australian Wine and Brandy Corporation )によって行われた。
これは1980年代後半から1990年代初頭にかけて、ECへのオーストラリア・ワインの輸出が増加したことを受けて実施されたものである。

 

産地間のブレンド


ヨーロッパの原産地呼称制度(AOC&DOCなど)では、産地間のブレンドは禁止されているが、オーストラリアにはこの法的規制はない。現在、オーストラリアワイン産地は、60地区以上がGIによって指定されているが、産地間のブレンドが盛んに行われている。

産地間のブレンドは、醸造家にとってはそのワインの幅を広げるものであり、消費者に常に新しいタイプのワインを提供できるものとして、ヨーロッパの伝統的ワイン造りとは全く別の考えに基づいたもので、オーストラリア・ワインの特徴の一つである。

以上のことから 、シラーズとカベルネ・ソーヴィニヨン、セミヨンとシャルドネなどと言ったブレンドは、オーストラリア・ブレンドワインとして、今日では、世界の市場で受けいれられている。

品 種
Old Shiraz オーストラリアの主要栽培品種は、アメリカやチリ等新世界に共通する「国際品種」と呼ばれる品種である。殆どのオーストラリア・ワインはこの「国際品種」で造られている。

中でも、オーストラリアではシラーズ(shiraz)と呼ばれているローヌ系品種のシラー(Syrah)は、フィロキセラに侵されない古木が生育していて、フランス・ローヌの名醸地で造られるワインに勝るとも劣らないワインがオーストラリアでは造られている。
このシラーの長寿で高品質のワインこそ、オーストラリアのワインの存在を世界に知らしめたものである。

 

lin

Shiraz  (シラーズ)

この品種は、南フランスのローヌ地方のものであるが、
原産は、イラン地方で十字軍がフランスに持ち込んだと言われていわれている。
別名ハーミテッジと呼ばれ、この名はコート・デュ・ローヌ地方の一地域の名でもあるが、修道士、即ち、世捨て人(hermit)が栽培したからだとも言われている。

オーストラリアでは、ジェームス・バスピーが最初に導入したと言われ、古くから栽培されている品種である。
暑い気候に適した品種で、雨に弱く乾燥に強い。その上単収も比較的高かったことから、早くからオーストラリアに普及した。

この品種から造られるワインはローヌの赤ワインと同様、非常に深い赤となり、オーストラリア独特のコクをもった力強い長寿のワインが出来る。
オーストラリアで最高級の赤ワインと言われるPenfoldsの「Gramge(グランジ)」は、この品種から造られている。

 

オーストラリアでは、この品種とカベルネ・ソーヴィニョンとのブレンドで造られるワインも多い。(ラベルの上では、ブレンドの割合が大きい品種の名を先に書くことになっている)。
また、最近は、軽快な若飲みの赤ワインも造られている。

バロッサ・ヴァレーには、100年以上の古木のシラーズが生育しているが、それは、南オーストラリア州が、厳しい検疫を課していたため、州内はフィロキセラに汚染されていないからである。この古木こそが、世界で最も特徴のあるワインスタイルの一つである凝縮度の高いバロツサ・シラーズを生み出している。

Penfolds Grange

国際品種
Cabernet Sauvignon
Cabernet Sauvignon (カベルネ・ソーヴィニヨン)

ボルドーのメドックからこの品種の素晴らしいワインの生産が始まり、ボルドーのワインを通して世界中で高い評価を得ている品種。
小粒で果皮の固い晩熟な品種。乾いた土壌と温暖な気候が必要で、ボルドーより北部では、ロワール川中流域までが栽培の北限。
完熟すると、色、風味に加え、引き締まったタンニンが素晴らしい。
醸造と樽熟を慎重に行えば、最も長命で複雑で豊かなアロマを醸し出す。ボルドーではメルローやカベルネ・フランとブレンドされるが、チリや北カリフォルニアでは素晴らしい単品種ワインが出来る。世界中に最も広く行き渡った赤ワイン品種である。

 

Merlot
Merlot (メルロ)

この品種は、19世紀までは2流品種と考えられていたが、現在では、赤ワインの最高品種の一つである。
最高のメルロの生産地はポムロールだが、ボルドーから地中海沿岸や新世界各地で幅広く栽培され、まったく違う様々な生育条件や気候に問題なく適応している。
果粒が大きく肉付きがいい。果皮が薄いためタンニンの割合は低いから、熟成にも耐えるが早い時期にも飲める。早熟なこの品種の特徴は、やや色は薄いが、スパイスの効いた果実やプラムを思わせる芳しいアロマ、まろやかであっても存在感のあるタンニン、それでいて繊細な骨組みにある。
メドックではカベルネ・ソーヴィニヨンとよくブレンドされている。

 

Pinot Noir
Pinot Noir (ピノ・ノワール)

ピノ・ノワール種は、ブルゴーニュの歴史が育てた最高品種。
小粒の果実がぎっしり付いた房がマツカサの形に似ていることから、ピノ(pinot=松)の名が生まれたと言われている。
繊細で、霜や病気の影響を受けやすく、早熟な性質で、非常に優れていると同時に、気難しい子どものような存在。しかし、ブルゴーニュ地方のように温暖な時期が短い北部では、この品種の持つ成熟の早さが一つのメリットとなっている。特筆すべきは、テロワールによって、驚くほど様々な味わいの赤ワインを生み出すことである。
色は濃い方ではない。長く続くその後味と繊細なアロマを持つ。その柔らかなタンニンと優しくシルキーで溶けるような舌触りのワインは、熟成によって洗練された気品を醸し出す。
新世界の栽培家達も、自分の地でもと試みているが、この品種の気難しさ故、冷涼な極く一部の地域のみがその幸運に恵まれている。
単品種で使われ、ブレンドされることはめったにないが、シャンパンには、シャルドネに、ピノ・ムニエと共にブレンドされる

 

Syrah
Syrah (シラー)

シラー種は中世の十字軍が、イランのシラーズから持ち帰ったものと言われているが定かではない。この品種は、ローヌ河流域に広く栽培されているが、特に、ローヌ北部のコート・ロティやエルミタージュの急斜面の痩せて乾いた土壌でよく育っていて、色の濃い長寿の偉大な赤ワインを生み出している。
深みのある濃い色を持ち、スミレ、ブラックベリー、ブルーベリーのアロマはスモーキーでシャープ。タンニンもバランスよく持ち合わせている。
成熟期の遅い性質だが、近年フランスにおけるシラー種の栽培は大幅に高まっており、ローヌ河流域からラングドックやプロヴァンスへと拡がっている。
又、新世界でもオーストラリアのバロッサのような暖かい地域では濃密で豊かな力強いワインを造っているが、フランスとは全く異なる味わいである。世界中の栽培家達がこの品種に挑戦的実験を行っているが、そのワインの多くは、常に風味に富んだ切れ味をあとくちに残すものを持っている。

 

Sauvignon Blanc
Sauvignon Blanc (ソーヴィニョン・ブラン)

セミヨン種とのブレンドにより評判を呼んだグラーヴの白ワインが、このソーヴィニヨン・ブラン種を世界に広めたもとである。近年のワイン生産技術の進歩によって、そのアロマをより引き出す技術が定着した。
ロワールのサンセールやピイィ・フュメのような上質の石灰質土壌でよく育つ。幅広い適応能力を持つ品種だが、暑すぎると独特の香りと酸味を失ってしまう。従ってカリフォルニアやオーストラリアの多くの土地では重過ぎるものになりがち。
できるワインは、香りが鋭く、きわめて新鮮。生き生きとした豊かな味わいを持ち、比較的若いうちに飲むのがベスト。

 

Chardonnay
Chardonnay  (シャルドネ)

シャルドネ種は、発芽が早いため春霜や病気に掛かり易い品種だが、非常に適応性が高い品種で、北のシャンパーニュ地方から、ロワール河流域、南のラングドック地方まで広範に渡り栽培されている。
しかし、冷涼な北部の土地でこそ、そのアロマの豊かさと酸味のバランス、熟成向きの素質を開花さる。最高のシャルドネが、ブルゴーニュ地方、特に モンラッシュで生産されているのは全くの偶然ではない。
気品ある白ワインを生み出すシャルドネ種は幅広い複雑なアロマを持ち、ライムの花、桃、洋ナシ、蜂蜜、柑橘類を思わせるその洗練された芳香は、トップクラスの葡萄品種の証である。

 

RiesLing
RiesLing  (リースリング)

ライン河沿いに育った高貴種。白ワインの王と言われている。晩熟で冬霜に強い品種。ドイツの多くでは甘口ワインに仕立てるが、アルザスでは辛口を造るように、生産地によって全く違ったワインが出来る。又、華麗に熟成(オーク樽は使わない)させることも出来る品種でもある。
若いうちはデリケートなフルーツ香を帯びるが、熟成するにつれて、ペトロールと呼ばれる独特のブーケが出てくる。繊細さの中に華やかさもあり、ノーブルでエレガントな白ワインを造る。
20世紀の一時期、過小評価されていたが、近年再びゆっくりと流行し始めて、新世界の冷涼な地域でも栽培が始まり、良質なワインが生まれている。